いつけられて……」
「ああ、そうですか」
文彥はなにげなく、ポケットから黃金の小箱をとりだそうとすると、
「シッ、だしちゃだめ!」
香代子はすばやくあたりを見まわして、
「文彥さん、あなたお約束をしてちょうだい。三つのお約束をしてちょうだい」
「三つの約束って……?」
「まず第一に、おうちへ帰るまで、ぜったいにその箱を、だしてながめたりしないこと。第二に、ほんとに困ったときとか、いよいよのときでないとその箱をあけないこと。第三に、なかからなにが出てきても、けっしてひとにしゃべらないこと。……わかって?」
「わかりました」
「このお約束、守ってくださる?」
「守れると思います。いや、きっと守ります」
「そう、それじゃ指切りしましょう」
にっこり笑って、香代子はゲンマンをしたが、すぐまた、さびしそうな顔をして、
「文彥さん、あなたにお目にかかれて、こんなうれしいことはないわ。でも……またすぐにお別れしなければならないんじゃないかと思うのよ」
「どうしてですか?」
文彥はびっくりして聞きかえした。
「ダイヤのキングよ。ダイヤのキングがスギの幹に、くぎざしになっていたでしょう。ダイヤのキングが、あたしたちの身のまわりにあらわれると、いつもあたしたちは逃げるように、お引っ越しをするの。
いままでに五ヘンも、そんなことがあったわ。こんどは二年ばかりそんなことがなかったので、やっとおちつけるかと思ったのに……」
「香代子さん、それじゃだれかが、きみたちの家をねらっているというの?」
そのとき、フッと文彥の頭にうかんだのは、あの気味の悪い老婆だった。それからもう一つ、あの客間にあるよろいのこと。
「アッそうだ。香代子さん、きみんちの客間にあるよろいね。あのなかにはだれかひとがはいっているの?」
「な、な、なんですって?」
香代子はびっくりして目をまるくした。
「文彥さん、そ、それ、なんのこと? よろいのなかにひとがいるって?」
「いや、いや、ひょっとすると、これはぼくの思いちがいかも知れないんだ。しかし、ぼくにはどうしても、あのよろいのなかにひとがいるような気がしてならなかったんだ。息づかいの音がするような気がしてならなかったんだ。
それをおじさんにいおうとしたんだが、おじさんがむりやりに、ぼくを外へ押しだすものだから……」
大きく見張った香代子の目には、みるみる恐怖の色がいっぱいひろがってきた。しばらく香代子は、石になったように立ちすくんでいたが、とつぜん、口のうちでなにやら叫ぶとクルリとむきなおって、
「さようなら、文彥さん、あたし、こうしちゃいられないわ。いいえ、あなたはきちゃだめ。あなたは早くおうちへ帰って……。
箱をあけるのは、8.1.3よ」
香代子はまるで猛獣におそわれたウサギのように、やぶかげの小道を走り去っていった。
文彥はいよいよますます、キツネにつままれたような気持ちがした。考えてみると、きょう一日のできごとが、まるで夢のようにしか思えないのだ。
文彥はよっぽど香代子のあとを追って、もう一度あの家へひきかえしてみようかと思ったが、気がつくと、あたりはすでにほの暗くなっていた。
いまからひきかえしたりしたら、すっかり日が暮れてしまうことだろう。
それにきちゃいけないという香代子のことばもあるので、やめてそのままうちへ帰ってきたが、
「ただいま」
と、|格《こう》|子《し》をあけるなり、奧からころがるように出てきたのはおかあさんだった。
「ああ、文彥よく帰ってきたわね。おかあさんは心配で心配で……それに、|金《きん》|田《だ》|一《いち》先生も、けさのテレビを見て、ふしぎに思ってきてくだすったのよ。あまりおそいから、いま迎えにいっていただこ